東京高等裁判所 昭和27年(ネ)752号 判決
被控訴人がかねて東京都から本件土地百六坪四合六勺六才二を賃料一坪につき一ケ月金二十八銭(この土地全体では一ケ月約金三十円)の約で賃借し、その地上に木造建物三棟を所有していたところ、この建物について昭和一九年中、被控訴人から控訴人にたいし、所有権移転登記手続がなされたこと、右建物は昭和二〇年三月いわゆる強制疎開によつて除却され、本件土地にたいする右賃借権も消滅したことは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第二号証によると右建物の所有権移転登記のなされたのは昭和一九年六月二日であることが認められる。
以上の事実と(中略)をあわせ考えると、被控訴人は昭和一九年五月中訴外山田章にたいし右建物とともに本件土地の賃借権を売渡し、訴外山田章はそのころこれを控訴人に転売したものであるところ、右三者間の合意で中間の手続を省略し、建物所有権移転登記および土地賃借権の譲渡につき東京都の承諾をうることは直接被控訴人から控訴人にたいしてすることとし、被控訴人はこの合意にもとずいて前記のとおり建物所有権移転登記手続をしたものであつたこと、しかるに当時被控訴人は長野県に疎開しており、土地の賃借権譲渡につき東京都の承諾をえないでいるうち、建物は強制疎開により除却され、土地賃借権もこれにより消滅したものであることが認められる。(中略)
しかして(中略)によれば、東京都では強制疎開解除後、疎開土地を再び旧借地人に賃貸し、ついで払下をしたことが認められるので、疎開土地の旧借地人は旧賃借権の消滅にもかかわらず右の限度においてはなお右権利にもとずく利益を有したものというべく、被控訴人は控訴人にたいし、かような利益をうけさせるため、旧賃借権の譲渡につき、さかのぼつて東京都の承諾をうる義務を負担していたものと解すべく、被控訴人がもしこの義務の履行を怠つた結果、被控訴人をして右利益をうける機会を失わせ、そのため控訴人が本件土地の賃借も払下も受けることができなかつた場合は、被控訴人にたいし、これにより生じた損害を賠償すべきものといわなくてはならない。
しかるに(中略)をあわせると、控訴人は東京都にたいし、被控訴人名義をもつて昭和一九年六月ごろから昭和二〇年三月ごろまでの本件土地賃料を支払い、都有地貸付料収納簿にも賃借人名義たる被控訴人の氏名のほか控訴人会社の商号、本店所在場所が併記され、いまだ東京都による正式の賃借権譲渡の承諾がなくても東京都の係員には控訴人が賃借権の譲受人であることが知られていたこと、よつて控訴人は昭和二二年九月一九日東京都にたいし、本件土地の旧借地人としてその賃借を願出でたものであるところ、被控訴人は旧賃借権の譲渡人として控訴人にたいし前示のごとき義務をつくすことを怠り、かえつて自己が本件土地の旧借地人であるとしてその当時本件土地につき控訴人同様の賃借願出をしたため両者間に紛争を生じ、都の係員はこれを斡旋したが、解決せず、東京都ではそのころ土地貸付台帳の登載するところにしたがい、被控訴人を旧借地人と認めてこれに本件土地を賃貸したことが認められる。(中略)
なお、右認定のような被控訴人の所為は控訴人にたいする前記義務に違反するものであるから、控訴人は被控訴人のかかる所為により被むつた損害の賠償を求めうべきは当然であるが、被控訴人が東京都から新たに設定を受けた本件土地の賃借権は旧賃借権とは全く別個のものであり、これをもつて旧賃借権が更新されたもののように見ることのできないことは言をまたず、控訴人が旧賃借権譲渡の効力として新賃借権もまた控訴人に帰属することを主張しえないことは明白である。
よつて控訴人が被控訴人にたいし、本件土地につき現在その主張のような賃借権を有することの確認を求め、かつ、東京都貸地台帳に右土地の借地人が被控訴人となつているのを控訴人会社に書換手続を求め、この賃借権にもとずいて地上建物を収去して土地の明渡を求める本訴請求はその余の争点について判断するまでもなく失当であるからこれを棄却すべきものである。